被災マンション復旧技術維持センター創設の提案

2020.04.18 防災の取り組み

被災マンション復旧技術伝承の問題点

4年前の4月16日に震度7の地震に見舞われた熊本地震。14,16日と続いた地震で、市内755棟のマンションが被災した。地震らしい地震を経験しない熊本市内の755棟のマンションは、巨大地震に86%が被災した。全壊19、半壊201、一部損壊433棟に及んだ。

地震後、早いところでは半年後から復旧工事が始まった。地元にある熊本県マンション管理組合連合会(熊管連)では、被災後1か月後に、被災マンション相談会を開き、全管連、マンション学会、全国マンション問題研究会、マンション計画修繕施工協会など関連団体が協力した。熊管連では相談会を契機に、被災マンション管理組合を対象に、きめ細かい相談、復旧方法のセミナーなどを精力的に開き、被災マンションを支援してきた。

しかし、震災直後からの建築費の高騰、資材不足、職人不足が続き、とくに職人不足は顕著で、北海道、東北、関東などからかき集められ,手間代も一日3~5万円にもなった。

それより問題は、半損、一部損壊したマンションの改修で、損壊した廊下の壁、外壁、エレベーターホールの壁など、改修したはずの壁などが設計通りに直らない、という現象が多く見られた。

当時、福岡大学の古賀一八教授(2019年3月退官)は、福管連に協力して、2年余、ほぼ、毎週熊本に駆けつけ、復旧工事を指導するなどに精力的に動いた。古賀元教授は、25年前の阪神淡路大震災時に、長谷川工務店研究所員として、神戸、芦屋など被災地を中心に300棟を超えるマンションの建替え、改修に携わった。

熊本地震で、古賀元教授は図面通りに直らない改修現場に立ち、基本的な改修技術が施工会社に伝承されていないことを指摘する。阪神淡路大震災時に現役だった職人はほとんど定年で退職した。古賀元教授によると、阪神淡路大震災の数年前、国が実験用の5階建てマンションを建て、それを破壊しては改修ずる研究を重ね、古賀元教授もそれに参加、その時に残された技術シートを所有しているが、肝心の職人の技術は伝承されていないのが最大の問題と指摘する。

  1. 伝承されない復旧技術 技術の伝承といっても課題が多く、ほとんどの職人は現場を離れると、その技術を残す余裕がなく、新しい現場、また別の現場へと回る。大震災が頻繁に発生するわけではないことから、現場での技術は忘れられることになる。古賀元教授は、熊本地震でマンション改修に活躍した職人が現役でいる熊本、福岡など九州地区の施工業者にまず協力を仰ぎ、改修技術を残す手立てを講じ、官民で改修技術を残すセンターを設けることが先決と訴える。30年以内に7割の確率で発生すると政府が予測する首都直下型地震、東南海トラフ地震。甚大な被害が予測されるだけに、古賀元教授は、早急な立ち上げが望まれる、と指摘する。センターは、改修技術シートの作成、保存、現場作業の講習、新規技術の研発開発など多岐にわたるが、官民の共同作業が望まれる。
  2. 東北、阪神淡路の事例も材料に こうした技術の伝承について、日本マンション学会行政課題研究委員会は、昨秋に古賀元教授を招き、実情をヒアリングした。9年前の東北大震災、25年前の阪神淡路大震災での同様の事例を探り、管理組合をはじめ、当時の施工会社、技術者を探し出し、事例を集める考えだ。

建替え技術は、新築とほぼ同様で臨めるが、半壊、一部損壊など『直して住む』マンションの方が圧倒的に多いはず。そこでの改修技術をきちんと残す努力を見直したいし、地球資源の節約の視点からも大きな意味がある、と同研究委員会。 一方、熊管連の堀邦夫会長は、3年前自らのマンションの大きくひび割れた壁の改修工事で、接着剤のエポキシ樹脂が中途半端に入っていたことでやり直し工事を繰り替えした経験から、「ほかにも失敗した事例を熊管連ではつかんでいる、大震災では半損、一部損壊のマンションが圧倒的に多くなる。それを的確になおす技術をもたないと本当の意味で復旧といえない」と指摘する。

(全管連会長 川上湛永)