熊本地震1年 被災マンション補修に全力投入
古賀 一八氏(こが かずや) 福岡大学教授(建築防災学)に聞く
—熊本地震から1年たちました。熊本市内にある850棟のマンションの65%が被災しました、そのマンションの調査、補修、アドバイスに奔走されています。被災以来、50回以上、毎週のように現地入りしています。
古賀昨年5月、熊管連、全管連、マンション学会などの主催で、熊本市内で被災マンション相談会があって、その模様をテレビで見ました。法制度やマンション建替えの仕組みの話が中心で、マンションをどう直すのか、という視点がないように感じて、当時、会長の平江澄雄さんに電話したら、近く総会があるから、そこで、その話をぜひ、と言われました。それ以来、調査や講演などで熊本通いです。
—熊本では、全壊19、大規模半壊24、半壊132、一部損傷403で、計559棟ものマンションが損壊しました。
古賀益城町など木造住宅の大きな被害が報じられていますが、実は、マンションも相当な被害を受けています。当面、大規模半壊や半壊のマンションの調査と、具体的な補修のお手伝いをさせていただいていますが、ピロティ形式で、建物全体が,しりもちをついた場合は別ですが、ほとんどのマンションは、直せると思っています。杭が地中で折れたマンションでも、修復は十分可能です。直らないマンションはないというのが私の信念です。
実は、昭和56年に、国が破壊したビルの改修をどうするのかの実証実験をしています。私も、参加していますが、5階建てのビルを建て、壊してまた建てて、修復の実証データをつくったのですね。これが阪神淡路大震災で役に立ちました。
—阪神淡路大震災で、380棟ものマンションの改修を手掛けられたと聞いています。
古賀23年前の震災当時、長谷川工務店技術研究所にいまして、長谷工は実は、阪神地区では、多くのマンションの建築を手掛けていました。ですから、被災マンションの設計図、構造計算が手元にありました。これが強みでしたね。 震災翌日から、現地に入って、調査して、直せるかどうか判断してゆきました。380棟のマンションの補修は、半年で仕上げました。しかし、その時、関わった職人さんは、ほとんど定年退職してしまいましたね。
—補修マニュアルを、他社の社員や住民の方にも、気軽に配布していますね。
古賀阪神淡路の経験をもとに作成したマニュアルです。秘密にすることでもないので、どんどん渡しています。これを見て直していただく、補修費用の目安もわかりますから、管理組合さんにも渡していますよ。
—ところで、熊本地震は1年が早くもたちましたが、マンションの修復は遅れに遅れています。
古賀阪神淡路の時に、管理組合さんに、復旧のために臨時総会の開き方、資金の調達方法、住民の合意形成の方法などを教えて来ました。熊本では、マンションが自主的に主体的に動かなければいけないのに、少し動きが鈍いです。ここをどうすればいいか。管理組合さんが、リードしていかないと。管理会社任せは、いけません。管理組合が主体的に進めることが肝心ですね。この間、職人の手間賃も一部では、一日6万円にも跳ね上がっています。これでは、管理組合さんも、復旧に踏み出せない。 熊管連には、羅針盤になっていただいて、リードしていただきたい。でも、一からはじめて熊管連は、この1年、よくやってきました。平江会長という、柱を1月に亡くしましたが。
—建築防災がご専門ですが、この道を選んだのはなぜですか。
古賀東京理科大学の助手の時代、昭和57年2月、東京・永田町のホテルニュ―ジャパンの火災の調査を手伝いました。なぜ33名もの犠牲者が出たのか、犠牲者の御遺体にも接しましたが、安全であるべきホテルがなぜなのか、と痛切に思いました。実は、長崎原爆で、肉親を亡くしていまして、子供のころから災害、防災、安全の問題には人一倍関心がありました。熊本に毎週のように通うのは、そんな思いが根底にあるのかもしれませんね。
—マンションは被災しても直せる、これが古賀さんの信念ですね。
古賀首都直下地震、南海トラフ大地震が予測されていますが、全国どこでも地震が起きるのが、日本です。マンションを確実に直せる、という人材を育てたい。
—これからもマンションのサポートを継続ですね。
古賀たまたま福岡に大学がありますので、自宅から熊本まで2時間もあれば、駆け付けられる。この距離感が調査、補修には絶好ですね。これからも、協力します。