7..共用部分は公共的な役割をもつので非課税に そもそもマンションという住み方は、狭い土地を有効に利用しようというところにあります。そのためには上に伸びていかなければならず階段やエレベーター室が当然必要になります。これは平地の道路と同じ役割です。パイプスペースも、個々の専有部分にしてみれば、道路地下に水道管や排水管が敷設されて木造一戸建て住宅に供給されているのと同じです。 集会室は、町内会館と同じ役割をもっています。実際に戸数が数十戸以上あれば、マンションだけで一つの自治会・町内会となっている場合もあります。マンション集会室が町内会館とみなされれば、非課税としている市町村があります。1戸当たり年間1,000円から1,500円が、数十年にわたって減額されます。 しかも建築基準法では、共用部分(廊下・階段ほか)の床面積を一定の条件のもとに(建物の2~3割程度ある)容積率算定において除いて計算するように1997年6月13日から改められました。固定資産税では、いまだに共用部分を除いていません。さらに2014年7月1日からは、マンションの各階のエレベーター室の床面積も同様に除外されました(建築基準法施行令第135条十六)。 マンションは、安全確保のため、オートロックになっているところが増えてきています。オートロックだから誰でも入れるわけではないので、道路と同じように考えるのは無理があると思う区分所有者もおられるかもしれません。 しかし、例えば私有地を道路として提供した場合は、無税となります。オートロックであっても、住民(区分所有者や賃貸人などの居住者)の同意があれば、誰でも廊下を通ることは可能であり、また住民に用事のある人は、廊下を通らなければ専有部分の玄関口まで行くことはできません。このように考えると廊下は、戸建て住宅内の廊下とは全く異なり、公共的な役割を果たしています。 マンションの共用部分は、非課税にすべきです。私の住んでいる北海道では、実際に集会室やプレイルームやトランクルームなどの規約共用部分を札幌市は半額、旭川市は町内会館的な使用の集会室は全額非課税にしています。 *建築基準法での「床面積の算定方法」については ・1986年4月30日 建設省住指発第115号 特定行政庁建築主務部長あて (ピロティ,吹きさらしの廊下,屋外階段等を床面積 から除き、固定資産税からも除かれている) ・1997年6月13日 建築基準法改正 法律第79号 (廊下・階段室・エントランスホールなどの共用部分は容積率から除かれたが、固定資産税の算定からは除かれていない) ・2014年7月1日 建築基準法施行令第135条の十六 改正 (エレベーターの昇降路部分は容積率から除かれたが、 固定資産税からは除かれていない) *道路について ・位置指定道路(いわゆる私道)、開発道路(将来公道となるもの)など建築 基準法上の道路は、私的所有であっても非課税となっている。 | |
(全管連副会長・水島能裕) |
5.固定資産税とはどのように課税されるのか? 固定資産税とは、毎年1月1日現在に土地や家屋、償却資産を所有している人が、その所在する市町村に納める税金のことをいいます。 ◎固定資産税を納める人 毎年、1月1日現在で土地・家屋・償却資産を所有している人です。 (原則として1月1日現在で、固定資産課税台帳に所有者として登録されている人です。) ◎固定資産税の算定方法 資産の評価と価格等の決定について、総務大臣が定めた「固定資産評価基準」に基づいて評価します。 ◇評価替えについて 土地と家屋に限り、原則3年ごとに評価基準が改正される評価替えが行われ、評価額が見直されます。次回評価替えは、平成30年度となります。 ◇税額について 課税標準額に税率(標準税率は1.4%)を乗じて算定します。
6.特例で、鉄筋コンクリートは、木造より4割も高い 家屋の評価額には、物価水準による補正率があり、木造は、1.00、0.95、0.90の3段階、非木造は1.00となっています。 設計管理費等による補正率もあり、木造1.05、非木造1.10となっています。 2000年に施行された「構造の安定」や「火災時の安全」などの10項目が評価の対象となる「住宅の品質確保の促進等に関する法律」と、2009年6月に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」の二つがある今、木造とマンションを差別する根拠は薄弱です。 さらに、北海道・東北には積雪寒冷補正率があります。これは、積雪または寒冷の影響による損耗を考慮して、経年減点補正率をさらに減ずるものです。 木造の場合は、経年減点補正率を積雪・寒冷の度合いに応じて、5%~25%(北海道は25%)減じています。マンションには全く適用がありません。 マンションこそ積雪寒冷の影響を受けて、コンクリート内に浸入した水分は膨張と収縮を繰り返し、コンクリートを破壊します。そのため、約15年~20年ごとの大規模修繕は欠かすことができません。マンションにも、積雪寒冷補正率の制度を適用すべきです。 マンションは、木造との耐用年数の違いによる評点の格差のうえに、以上3つの補正率だけでも、最大で10%+5%+25%=40%の格差がつきます。 鉄筋コンクリートも木造も、適切な修繕が伴って初めて長期間の耐用年数が得られます。適切な手入れがなければ、鉄筋コンクリートも木造も30年ほどで使用に耐えなくなります。したがって、マンションと一戸建ての評価額に、1.5倍程度の差をつける理由はありません。 以上 参考までに、鉄筋コンクリートと木造の差が少なくなっているとする次の研究の一部を引用します。 積雪寒冷地域における家屋の損耗に関する調査研究 財団法人 資産評価 システム研究センター 平成5年3月 は し が き 「財団法人 資産評価システム研究センター」は、適切な地域政策の樹立に資するため、地域の資産の状況及びその評価の方法に関する調査研究等の事業を実施することを目的として設立されました。 当評価センターにおける調査研究は、資産評価の基礎理論及び地方公共団体等における資産評価技法の両面にわたって、毎年度、学識経験者及び自治省並びに地方公共団体等の関係者をもって構成する資産評価システム、土地、家屋及び償却資産の各部門ごとの研究委員会において行われ、その成果は、会員である地方公共団体及び関係団体等に調査研究報告書として配布し、活用されているところであります。 本年度の家屋研究委員会の調査研究 テーマは、 (1)積雪寒冷地域 における家屋の損耗に関する調査研究 (2)潮風の被害による家屋の損耗の状況に関する調査研究 (3)プレハブ方式構造建物(軽量鉄骨系 ・鉄筋コンクリート系)に係る再建築費等に関する調査研究 本報告書は、上記(1)の調査研究に属するもので、積雪地域及び寒冷地域にお ける家屋の損耗等の状況を把握し、現行の経年減点補正率に乗ずることとされている積雪寒冷補正率や対象家屋の拡大の是非等の調査研究を行いました。
「積雪、寒冷地域に所存する木造建物の損耗状況は、積雪量や気温の違いによって必ずしも一律ではないが、積雪、寒冷という気象条件がもたらしている特別な損耗は認められるが、現行の積雪 ・寒冷補正率の値よりは減少していると考えられる。 非木造家屋においても、木造建物と同様に積雪、寒冷という気象条件がもたらしている特別な損耗は、認められる。現行の積雪 ・寒冷補正率の適用範囲は 「家屋の構造が、軽量鉄骨造 、れんが造、 コンクリートブロック造のもの」とされているが、非木造建物の損耗実態を分析すると家屋の構造の適用範囲を限定する必要はなく 非木造建物全体に適用することが好ましいと考えられる。 以上のことから、現行の積雪、寒冷地域に所存する木造家屋の積雪寒冷補正率を見直しすることが望まれるが、積雪寒冷補正率を改正するためには、積雪寒冷による建物の損耗実態を科学的に捉えることが必要であり、今後 、さらに基礎的な調査研究を積み重ねていくことが大切である。」 (86ページの本文から一部を引用) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(全管連副会長・水島能裕) |
4.固定資産税では耐用年数を長くしている 建物の固定資産税課税上の耐用年数は、所得税や法人税の減価償却の際の法定耐用年数とは異なり、
と長くなっています。しかも、この年数が経過しても、評価額は再建築価格の20%が残ることとなり、所得税や法人税などの減価償却上の備忘価格1円とは大違いです。 *固定資産評価基準(昭和38年12月25日自治省告示第百五十八号) 最終改定:平成28年4月1日 総務省告示第百四十五号 より 減価償却上の法定耐用年数は、(所得税や法人税などの場合)
*主な減価償却資産の耐用年数(建物・建物附属設備) 国税庁平成21年分以後の所得税からの適用 より 同じマンションでも、鉄筋コンクリート造のアパートの賃貸経営をしている所有者の家賃収入に課税する所得税では、耐用年数60年は長すぎるとして、1998年から47年に短縮されています。固定資産税では見直しがされていません。 税法上の耐用年数は、実際の耐用年数とは何の関係もありません。税金を徴収するために定められているだけです。実際の耐用年数が材質による差がないことは既に第1回で記しました。100年もたせるマンション再生をめざす全国マンション連合会の考えがあるからこそ、鉄筋コンクリートと木造との格差を指摘しないわけにはいきません。 | |||||||||||||||||||||||||
(全管連副会長・水島能裕) |
*マンションと木造一戸建ての固定資産税の格差をモデル例でみてみます。 3.東京でのモデル比較 東京都大田区での82.5平方メートルの床面積の木造一戸建てとマンションの価格を比較したものをモデルとして取り上げます。 (買取価格と初期課税標準額はネットから引用) 買取価格は次のとおりとします。
それぞれの固定資産税の初期課税標準額は次のようになるとします。
固定資産税額の計算 税率は課税標準額の1.4%。ただし、住宅用地は200平方メートル以下の部分を「小規模住宅用地」と呼び、課税標準額が1/6に軽減されます。 土地に対する固定資産税額は、一戸建で4万3200円、マンションで1万7300円となります。土地の持分が少ない分、マンションの方が安くなります。 木造新築の建物は120平方メートルまでの部分は3年間、3階建以上の耐火構造または準耐火構造の新築建物は5年間、固定資産税額が1/2になります。 計算結果は、初年度の場合、一戸建の木造建物で3万3600円、マンションで8万2300円となります。 両者の軽減措置がなくなる6年後には、一戸建てが5万2600円に対しマンションは14万8000円となります。 また、マンションの場合償却期間が長いことが大問題で、25年後には一戸建の建物部分は20%まで償却されているのに対し、マンションの場合は償却が60年ですので、長期間マンションは高額の固定資産税を納めつづける計算になります。 土地の計算式
建物の場合は、3年に1回に評価替えがありますので、初年度と6年後の評価で は、《初年度から3年目まで》・《6年目から9年目まで》の各3年間の木造25年・マンション60年の償却率(この数値と仮定する)を掛けると、計算式は次のとおりです。
参考 (1)建物の償却について、固定資産税の場合、再建築費という考え方がとられています。3年ごとの評価替えの時点で、現在新築したとすれば、評点がいくらになるかを算定し、それに耐用年数による減額をします。したがって、両者を考慮した「償却率」は耐用年数から単純には算出できず、上記の各数値と仮定します。 (2)「固定資産評価基準」(平成28年4月1日 総務省告示第百四十五号) 合計額(軽減措置がなくなる6年後のマンションと木造の差)
*なお、ここでは都市計画税(0.3%)が考慮されていません。 マンションが建っている地域には、さらに都市計画税が加算されてきます。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(全管連副会長・水島能裕) |
マンションの固定資産税問題を、7回連載します。 1.木造住宅と比較して固定資産税が高い 現実マンションを買った区分所有者の皆さんは、例えば以前住んでいた一戸建ての木造住宅を売って入居したのであれば、両方の固定資産税を比較してみてください。 新築マンションであれば、建物について5年間だけ半額の特例がありますので、建物の固定資産税額を倍にして比較してみてください。木造と大きな差があることに気がつくはずです。 2.実際の耐用年数は材質で差がない 政府は「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」(略称「建替え円滑化法」)など、マンションの建替えについては、いろいろ法整備をすすめています。日本でマンションが生まれてからまだ約60年しか経ていませんが、築後30年過ぎたら建替えへ誘導してゆこう、という姿勢が、ちらつきます。 「木造は30年しかもたないが、鉄筋コンクリート造(RC)は60年もつ」という常識には、合理的な根拠はありません。木造もRCも手入れをすれば、百年はもちます。最近は、百年もつ木造住宅を売りにしているハウスメーカーもあります。したがって、木造とRCで耐用年数に差をつけて、固定資産税で格差をつける理由はありません。 しかも、1950年のシャウプ税制改革により、地方税として固定資産税が確立して以来、66年間基本は改正されていません。1962年成立の区分所有法に基づくマンションの存在などは考慮されていないのが現実です。 参考 財務省・PRE戦略検討会(h22.10.21)第2回の資料 (早稲田大学理工学院創造理工学部建築学科教授 小松幸夫氏) | ||||||||||||||||||||||||
建物平均寿命の推計・・・「東京」と「東京除く全国」の調査 家屋台帳(固定資産税)より分析 単位:年
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建物の寿命に構造材料による差はない、といっていいでしょう。木造は短い、(鉄筋コンクリ―ト)は長いということはない。 面積の大小が影響していて、狭い住宅ほど早く取り壊される(住宅金融支援機構資料の分析による)ため、東京の木造住 宅の耐用年数が短くなっています。 | ||||||||||||||||||||||||
(全管連副会長・水島能裕) |
《あるご夫婦の会話》…(ここでの固定資産税には都市計画税を含みます) マンションの所在地は、札幌市と想定していますが、全国どこでも、問題点は、それほど変わりません。 |
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妻: | 固定資産税の納税通知書がきたけれど、うちのマンションは築40年になるのに10万円を超えているなんて高くない? |
夫: | 管理組合連合会のセミナーで聞いてきたんだが、木造1戸建てに比べ、マンションの固定資産税は新築当初から1.5倍くらい高いそうだ。ただ最初の5年間は建物だけ半額だが、5年が過ぎると、20万円くらいになるそうだ。 |
妻: | なぜ、最初から高いのかしら。 |
夫: | 原因の1番目は、マンションは土地の割合が1戸建てに比べ10分の1くらいしかないことが大きい。住宅用の土地は固定資産税が6分の1に減額されているが、マンションでは、減額の恩恵がほとんど効いてこない。 |
妻: | 木造1戸建てに住んでいる知り合いの奥さんが、やはり築40年くらい経つそうだけど、固定資産税は6万円を切るそうよ。 |
夫: |
原因の2番目は、建物の耐用年数がマンション60年、木造25年と、マンションが木造の2.4倍にもなっていることなんだ。大学の先生の調査では、実際にはどちらも全国平均で50年以上使っているそうだよ。しかも、この耐用年数がくれば、会計会計(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)ではゼロになるんだが、固定資産税では最後まで20%が残る仕組みなんだ。 |
妻: | ウチなんか木造1戸建てが買えないのでマンションにしたのにね。 |
夫: | 原因の3番目は、木造にあってマンションにはない特例がいくつかある。マンションの延べ床面積には、廊下や階段や集会室などの共用部分が各戸に上乗せされているので、自分の住んでいる部屋の面積より3割くらい大きくなっている。さらに、物価水準補正率、設計管理費等補正率、積雪寒冷補正率があり、最大で4割も格差がつくようになっているんだ。 |
妻: | どうしたら、そんな格差をなくすることができるのでしょうね。 |
夫: | 今、全管連は、マンション再生法の制定運動を展開して、マンションを100年以上もたせようと頑張っているのだから、格差のある固定資産税を100年も払い続けるなんてできないよ。まず、共用部分の非課税を求めていくことだね。ある市では集会室は非課税、別の市では規約共用部分(集会室・トランクルーム・プレイルームなど)は最初から半額というところもある。もっと根本的には、マンション建物部分は、5年間の半額だけでなく、存続中は半額にするなどの要望を掲げて、全管連などを先頭に世論や行政に粘り強く働きかけることだね。 |
妻: | そうね。私もまず隣の部屋の奥さんに話してみるわ。 |
(全管連副会長・水島能裕) |
全国で640万戸、1450万人が住むマンション。毎年春に地元自治体からくる固定資産税・都市計画税の納税通知書を確認してみたことはありますか。首都圏だけでなく、地方圏の都市部でも、固定資産税が高いと感じたことはありませんか。戸建に比べ、1・5倍くらいは高いようです。平成25年のマンション総合調査(国交省)で、マンションを終の棲家とするひとが、52・4%と初めて5割を超えました。マンションは、長持ちするから、固定資産税は、ずっと高いまま払い続ける。不合理ではありませんか。マンションの固定資産税の様々な矛盾を解き明かしながら、一緒に考えましょう。 | |
(全管連会長・川上湛永) |